【ごめん。今日の飲み会キャンセルで!】
金曜日。Nからメールが来ていた。
Nは几帳面な子で、突然人との約束を反故するタイプじゃない。
大変なことがあったんだろうな、自然にそう思っていた。
月曜日の夕食。
「金曜日はごめん」Nは洋食屋で頭を下げた。「今日は埋め合わせで…奢る!」
てか私も金曜日仕事で朝まで接待してたから行けてない。
でも奢り?ならカツカレーとオニオンスープとマンゴープリンとコーヒー。
「多っ!」
奢ったほうが気が楽なんでしょ?Nこそ大丈夫なの?ドタキャンなんて珍しい。
「うん。弟が、自殺未遂しちゃって」
うわ。素直に「うわ」と言った。私の反応があまりに素で
Nは溜まっていた言葉を一気に吐き出した。
「東尋坊。福井まで行ったみたい」
と…とうじんぼう…(笑)。いや、本当に失礼だと思うけど
残念ながら私は素で笑ってしまった。東尋坊……。
「なんか絵に書いたような自殺場所でしょ?」
Nはいつもの三倍テンション高く話しはじめた。
暗く話せないし、笑うしかなかったのだろう。
あまり身振り手振りで話すタイプではないが
今日は机を叩いたり、笑ったり。それが少し痛々しいが
むしろ同情はイヤ、でも聞いて欲しいのだろう。
私はモクモクとカレーを食べながら話を聞いた。
弟君は就職して3年。普通に働いてる普通のサラリーマンだと思っていたが
実は就職直後に会社を辞めていた。
そして3年間辞めたと言えず、フリーターをして働いていたらしい。
就職活動も上手くいかず
でも東京の一人暮らし、フリーター生活は厳しい。
もう死にたくなってバイトも全部やめて置手紙して家を出た。
死のうと東尋坊へ向かったが死に切れずウロウロ→確保。
正直これは自殺未遂じゃない。
本当に自殺する人は知らないうちに死んでしまうから。
発見は場合よって数ヶ月かかる。一人暮らしなら三ヶ月。
家賃が自動振込みだともっとかかるだろう。
まあ身内にそんな事言えない。
言うタイミングを東尋坊まで行って作ったのか。私はデザートのプリンを食べた。
「そう。でかい反抗期で、もう放っておこうと家族で決めた」
おいおい…繰り返すぞ…と思ったけど
私は弟君の何もしらない。家族でもない。
フォーマットにはまった言葉を言うより
同僚でよく知ってるNの判断を後押しするのが一番だと黙った。
Nの父親は日本で三本の指に入る巨大企業で働いている。
40年間勤め上げて、来年退職する部長さん。
都心に家も買い、娘に、息子。嫁は専業主婦。
たぶん父親がしっかりしてるのがコンプレックスなのだろう。
父親の望む高校にも入れなくて望む大学にも入れなかった。
父の思いに答えたい。
父のようになりたい。なれるはず……何故できない?
焦ってもおかしくないと思った。
プライドが高いのは大変。今更性格は変わらない。
N曰く、父親は家事が全て出来ないけど
弟は自立してるし、父にはない良い所がある!というがムチャな話だろう。
勝てないと思った相手から「ここだけは勝てる!」なんてポジティブな事
考えられる訳がない。
閉じこもるのが関の山だろう。
たぶん彼は名前が通った場所に就職するか、夢を持つか。
二者択一でしかコンプレックスから抜け出せない。
父親に名刺で並んで、そこから自由になるのだろう。
お父さんが偉大な男の人は大変だな。
そう思った。
言わないけどね。
そんな分析、言われても間違いなく邪魔だ。
大変なことにならなくて良かったね。
それだけ微笑んでコーヒーを飲んだ。